次に検便。
社会人のそれは別として、私の記憶ではどうも小学生の頃しか記憶にない。
担任の教師から直径2、3?位の小さな、白いプラスチック製の容器(器と云うほどのものではない)が渡され、指定日に持参するようにと言われた。
「またかよ」
その度に心の中で舌打ちしたものだ。

その頃、まだ水洗便所は浸透しておらず、当然、洋式の便所なんて聞いたことがなかった。
大半は、金隠しがあって跨がってする和式の、落とし穴を覗けば、こんもりと、糞と、臀を拭いた塵紙が堆く頂になって見えた。
要は、母の実家のそれに便器が付いて足場の板敷きが頑丈になっただけの“どっぽん便所”であった。

提出当日、母は厳かな儀式を始めるかのように、慎重に便器の脇の板場に新聞紙を敷きつめた。
便器に用を足すのではなく、その新聞紙の上に用を足せ、と云うのだ。
尿はどうしたか。
普通、糞をひねり出せば自然と尿も出てくるものだが、新聞紙に脱糞した後、すぐ便器に臀をずらし放尿したのだろうか。
広くない便所内でズボンを下げたまま、臀も拭かずに移動出来るものか。
子供にその切り替えは至難の業である。
下手すると糞で床、足を汚してしまう。
であれば、しゃがむ前に放尿したのか。
気になる。
最近、頓に記憶の断片を思い起こすことが困難となり、躍起になって思い出そうとすると、その断片が掴まえようとする手からするりするりと抜け出るようで、至って精神衛生上良くないのでこの辺で止める。

儀式は続く。
私の役割を終えた後、母は爪楊枝を手に便所に入り込んだ。
新聞紙に脱糞したばかりの、ほかほかの湯気が立ち上る糞に爪楊枝をすっと差し込み、適量を引っ掛けるように掬い上げてプラスチックの専用容器にその爪楊枝を移した。
容器の回りを汚さないよう、その縁に爪楊枝を引っ掛け、慎重に糞を引き落とした。
無事、綺麗に納まったことを確認し、パチンと蓋をする。
新聞紙の残りの糞は便器に落とし、その新聞紙はゴミ袋に入れて処分した。
糞の納まった検便容器は、薬局で薬を処方してもらう時に薬を入れるような小さな紙袋に入れ、万が一に洩れた時、あるいは防臭のために更にその上から二重にしたビニール袋で包んだ。
子供に兄弟が多いと、この儀式を繰り返さなくてはいけないので母親は大変である。
私のところは都合3回あった。

検便を話題にして職場の同僚と話しをした。
同僚も私と同じ世代で、その方法も便器の脇に新聞紙を広げての口だった。
初めての検便は同僚にとって強烈な印象があったようだ。
同僚の母堂は、爪楊枝ではなく割り箸を使い、糞の臭いにおぇっーと空嘔吐の声を吐き、目に涙を溜め、顔を背けながら検便容器に糞を入れた。
その母の姿を傍目に見た同僚は、
「成長するにつれ赤ん坊の糞と違ってえらく臭くなるんだなって、子供ながらに実感したよ」
その話に思わず吹き出してしまい、私の目にも涙が溜まった。

検便は、回虫検査を目的に行なっていた。
人糞尿が農作物の肥料に使われていた時代、土が寄生虫の感染源となり寄生虫病が蔓延、その頃の日本人の70%が感染していた。

私の親の世代は、糞をマッチ箱に入れて学校に持参したそうだ。
「マッチ箱から溢れんばかりにたっぷりと雲古を入れこんだ子もいたよ」
母が笑いながら話すのを聞いて、時代は変わっても子供時代の糞の話題には事欠かないものだなと妙な感心をしてしまった。
マッチ箱では糞が染み出し、教室中がその臭いで充満したことだろう、と余計な心配までも。

検便の方法も現物を専用容器に入れる方法から、朝起きがけにセロテープのようなものを肛門に貼り付け、寄生虫の卵の有無を調べる方法(説明書きにキューピー人形のイラストをモデルにしてあったような記憶がある)、社会人になっては職場の健康診断の一項目として、歯間ブラシのようなもので糞の表面を刮げ採り、それを検査液が入った4、5?の細長い容器に差し込んで蓋をする方法という具合に、回虫検査から便潜血反応による大腸癌検査へと検査目的が変わった。
私の一回り下の世代であれば、小学時代から社会人の健康診断と同じ“歯間ブラシもどき差し込み方式”で検便を行なったそうだ。
寄生虫感染の心配がない世代は初めから大腸癌検査とは、食の変化がそうさせたのか深刻さが増すばかりだが、さてさていかに。
もしかすると、その目的は、次回の「米と異なるもの(後編)」の記述内容であったら驚きである。
いや、間違っても、それはない、だろうな。

コメント

nophoto
浜通り山沿いの住人
2007年3月2日15:22

☆さん上記の件に関しては、コメントのしようが無いっす。

nophoto
ニックネーム無し
2007年3月2日17:25

見ていただけるだけで有り難き幸せです。常に開き直って一人よがりで発信するばかりですから。こんな莫迦もいると、“一寸の虫にも五分の魂”のつもりでやっています。

nophoto
朴念仁
2007年3月2日17:27

ネーム忘れました!

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