表題の本は、ネットで別の本を検索して出合った。
一般者の書評を読んで興味が湧き、購入しようかとも思ったが、小遣い銭が底をついていたので図書館から借りて読んだ。

著者は柳澤桂子。
1938年生まれ。お茶の水女子大学名誉博士。遺伝学者。お茶の水女子大学理学部卒。ニューヨークのコロンビア大学大学院修了。三菱化成生命科学研究所主任研究員。69年、原因不明の病に倒れる。(巻末の著者履歴から抜粋)

著者は、前途有望な才媛であったが、31歳の時に不治の病に罹り、人生が一変した。
私も、生活環境まで大きく変わることはなかったが、考え、見方は一変した。
死が付かず離れず、いつもそばにあるからだろう。

本は、病、家族、いのち、心、老いの5つの章で構成され、簡潔に書かれている。
どれもこれも、体験した者の言霊であるから読む者の心に響く。
読んで、自然に肯う(うべなう)自分に気付く。

その中から幾つか引用してみる。

「病の章」
気持ちのなかに怒りとか悔しさはなかった。
それは怒り以上の、どうしようもない深い悲しみであった。
人間であることの悲しみ、
人間であることの限界を知る悲しみ。
それは涙も出ないほどの悲しみである。
存在の深淵からにじみ出る悲しみである。

もし、病気をしたことで、
学んだことがあったとすれば、
何の価値もない自分であることを肯い、
何の意味もない人生を生きることを
喜びとすることを学んだことだろう。

「家族の章」
その人が存在したという記憶は、
私の中にしっかりとあるのに、その人はいない。
その悲しみが少しずつ薄れ、淡い光が射してくるころには、
その人の死も丸みを帯びてくる。

おなじ無力な人間となって、
人間の限界に涙するときに、
両方の心のなかに
通い合うものがあるはずである。
そのときにはじめて、苦しむひと、
死に向かい合うひとの孤独を
癒す力があたえられる。

「いのちの章」
一個の受精卵は60兆個の細胞に増え、
人間という小さな宇宙を形成する。
脳が発達して、喜怒哀楽を感じ、考え、学習する。
自意識と無の概念は死へのおそれを生むが、
死への歩みは成熟、完成を経る歩みである。
100年に満たない死への歩みのなかで、
私たちには自分を高める余地が残されている。

「こころの章」
私たちが生まれるときにどのような遺伝子を授かるかは、
誰にもきめることはできません。
障害をもっている人は、私が受け取ったかもしれない障害の遺伝子を、
私に代わって受け取ってくれた人です。
障害をもった人が快適に過ごせるように、
私たちはできるかぎりのことをしなければならないと思うのです。

最後に、「老いの章」から。
人間は偉大なりと誇ることもできるかもしれないが、
私は、生物の進化の速度と人間の技術の進歩の速さに
異常な差のあることに恐怖の念を抱く。
人間が生物である以上、
この差が大きすぎるということは、
かならず大きな問題を引き起こすであろう。

以上、遺伝学者が感じ、観た精神世界とも言えようか。
しかし、科学的に何も難しいことは述べていない。
大自然、神、宇宙、欲、いのちの尊さ、優しさ、愛といった三大聖人が説いたような言葉が並ぶ。
これは死に直面した多くの、原始時代から続く人類共通の、最期に残された人間の真の感性ではないだろうか。
何が大切なものなのか、何を大事にしなければならないものなのか、だから後に聖人と呼ばれるようになった人が命を賭して説き、実践してきたのだろう。
気付くには早ければ早いほどいい、死に直面する遥か以前に。
人間の生きる意味はそこにあり、それに気付いた一人一人の心の力が、やがて自ら招くであろう人類の危機を回避するものと信じて、私は明日も、天照らす陽光を貌に受け、歩む。






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2012年2月20日13:08


2012年02月20日
13:00


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